―――王様にならねぇか?

ノックの音と共に王の部屋に入る少年。銀髪の少年。
「失礼いたします」
ドアを閉めるなり顔を上げる。王もぱっと筆を片手にこの少年を見つめた。
「・・・陛下・・・」
「軍師だ。用件は?」
少年は、棚からとてつもなく太い書物を引き出し、椅子に座った。
「・・・・・・」
王は黙り込み、書類に眼をやった。黙って何も言わない王に軍師は違和感を感じ、見る。
「・・・・陛下?」
考え込んでしまっていた。
「あの。」
「おぅ」
「僕って、結婚してもいいんですか?」

軍師は固まった。

「結婚んんんんんんんんんんんんっっっ!!!!?????」


天武天文の国、真文国。7年前先の王が没した後、真文国の王に立った文王。冬樹。
彼の政治は多に類を見ないほど優れている。若干17歳の天才だった。
7年前起きた正地の乱の時に一人の少年を拾い軍師にした。その民、軍師の名前は海座。
彼の軍策もまた恐ろしく優れていた。彼は正地の乱におけるすべての軍事を行い、見事に正地を討った。
当時、若干10歳の、少年だった。
表向きは。


「おまっ!!け!?」
海座は言葉が上手く出こない口から一生懸命に声を出す。本は床に落ちた。
「落ち着いてください・・。・・・やっぱだめですか・・・?もともと僕は、民だし・・・・。」
「いや!違う!そういう事じゃねぇ!!!」
めいっぱい突っ込む。
「誰だ!その、相手!お前っいつの間に!??」
机にぶつかりながら尋ねる。その勢いに書類は2枚落ちた。
「誰って・・・・、ぁ、はい。」
文王はひとつの書簡を海座に差し出す。
「・・・?恋文か?」
海座は受け取り開く。差出人は、岩太国、国王。海座は黙って眼を通す。
「・・・・・」
「今朝、朝一で届いたんです。使者の方は急ぐとの事ですぐに帰られてしまったんですけれど。岩王様に第一皇女鼎亜(テイア)さまと僕のと結婚を提案されたのですが。」
たんたんと説明する文王。
「・・・・へぇ・・・それで・・・おめぇはどう思う」
「・・・岩太国、といえば銀を多く産出する大陸四大国の一指・・・。四大国間の緊張は日増しに厳しくなっています。そのための同盟がこの婚礼にはおそらく含まれてますね。国の豊かさをを思えば岩太国との交易が増えることは望ましく思います。それはあちらの王もまた同じ。岩太国は高山ばかりで食糧の自給に常に頭を抱えておられると聞きますし。それに、岩太国は医学が非常に発達した国です。あの国から学ぶことは多いでしょう。」
軍師は手紙から目をはなさない。
「・・・・利害の一致か・・・・」
手紙をたたむ。
「で、俺に何を聞きてぇんだ?結婚の許可なんか俺に請うなよ?おめぇの両親じゃねぇんだから」
「先に申し上げたように、四大国間の繋がりを作るわけです。つまり、今後この国はその亀裂に深く関わることになります。この婚礼を、軍事的にはどうなのか伺いたいのです。」
「・・・・軍事、か。・・・・そうだな。今は前回の魏太国の件がまだ残ってる。今まとめて四大国のいざこざに巻き込まれてる時間も金もねぇだろ。かといって・・・・・」
「断ることは即ち、同盟を組まず緊張の中に飛び込むこと、になる。」
「あぁ・・・。今はいい。だがいずれ必ずこの国はでけぇ戦に巻き込まれる。」
「・・・・魏太国のほうはどうなっているんですか・・・・?」
「あの国は完全に傾いた。脱走する兵がこの国に流れ込んできてる。軍が防いでるが・・・。国が傾けば必ず周りの国は何かに巻き込まれる・・・。やっぱ、難民なんかの影響はあるさ。」
「国を取っては・・・」
軍師はやっと落ちた本を拾った。
「今はまだ領地を増やすときじゃねぇ・・・。この小さな国でさえまだまだ問題はある。実際正地の残党は未だに騒いでやがる。」
「・・・・正地・・・・。」
「美木が切れそうだろ。それにお前の負担もかなり増える。なんせ魏太国を取るって事はこの国の面積がおよそ二倍になるってこったからな。」
「あ。僕はかまいませんよ。国事は好きだし・・・・」
軍師は固まる。王が苦い薬をいとも簡単に飲むような超人に見えた。
「・・・・それに、陛下にはもっと恩返しがしたいんです。」
にこっと笑う文王に海座は言葉が出ない。
「まぁ。なんだ。そうだな、とりあえず今すぐには答えはだせねぇ。つか・・・おめぇはいいのか?」
「何がですか?」
あっけらかんと応える文王に、彼の将来をいろいろ悩む海座。
「いや・・・なんでもねぇ。とにかく返書は時間をくれって書いとけよ。」
「はい。」
「じゃ。ちょっくら高羅と相談すっか。また来る。」
海座は本を棚に戻し扉に手をかける。
「あ。忘れてた。敬語。直しとけよ。」
扉は閉まった。

「あら。海座」
麗春が海座を見て剣を磨く手を止めた。
「おぅ。高羅は?」
「さぁ?美木、知ってる?」
「錬兵場じゃない?」
美木はそろばんを打ちながら答える。その横にどさっと海座が座った。
「なぁ。美木、今財政・・・どんな感じだ?」
「・・・・・・厳しいよ。結構魏太国の時のが響いてる。何?」
「・・・いや。今、魏太国を飲み込むにはどうかなと思ってな」
「・・・・・。あ。高羅」
美木は海座の後ろからやってきた大男に目を向けた。
「おぅ。高羅。」
「きぃたぜぇ。今の話。」
にかっと笑う大男は海座の頭にでっかい手の平を乗せてくしゃくしゃにした。
「まだ決めてねぇよ!あの国落とすにはおそらく相当な軍を率いていかなきゃなんねぇし、それにまだ正地の残党に手は放せねぇし・・・・・」
空気がすっと固まった。正地は此処にいる彼らの始まりだった。
「・・・・正地の残党・・・ね」
美木が筆を置く。
「それは気にしなくていいんじゃない・・・?あいつらに頭なんか無いし。ただの賊だよ。」
美木はいつもより眼を細くしてゆっくりいう。
美木は、正地の残党の乱に巻き込まれた少年だった。
その時海座に拾われた少年だった。
「・・・・っか。」
海座は言葉を選べなかった。だから、何も言えなかった。
「まぁ、あれだ。軍師。おめぇが呼びかけたとにゃ、俺達ぁいつでも、ついていくからよ」
高羅がまた髪の毛をくしゃくしゃにした。
「・・・・」
海座はふっと笑った。
「あぁ」



→次のページ


■ホーム■□□   拍手   意見箱   投票
 


 

inserted by FC2 system