どうしてこうなった。
 どうしてこんな、ふりふりの服を着ているのか。
 どうしてこんな、美しい茶器を運んでいるのか。
 全ての元凶。
 それはやはりこの男にある。
「子爵、お客様がおいでになられました。」
 限りなく棒読みでお伝えする。
「ああ。通してくれ。」
「はぁい。」
 なぜ。
 こうなった。

***

「お仕事・・・?」
「ああ。君の気概を見込んで。」
 子爵は笑った。
 にこ、いや、にや、が効果音としては適切だ。
 しかも別に見こまれたくないところを見こまれたと見える。
「別に、当面のお金には困ってないので、できれば旅を続けたいんですが。」
 というか、逃げなきゃなので。
「どうして旅をする?・・・ああ、武民の子供は旅をするんだったか。」
「ぶ、武民は関係ありません!それに私、子どもでもないですから!」
 しっつれーな!
「・・・いくつだ?」
「私はこう見えて19です!」
「・・・・・・・・・・・・。嘘だろ。」
 こんのやろー!
「そうか、せいぜい15、いや16くらいかと思っていたんだが・・・。」
「ほっといてください顔のことは。」
「いや胸が。」
 こんのやろおおおおおお!
「とにかく!私は借金取りに追われていて逃げなきゃいけないので!」
「借金?」
「親の借金です。」
 踏み倒す気は無いけれど、今は宛がない。多分今捕まったら売り飛ばされるか、ひどい目にあう。
「・・・ふぅん。じゃあ逃げなくてもよくしてやろう。」
「え?」
「私が立て替えてやろうと言っている。」
「・・・・・・はぁ?」
 もはや無礼な態度は隠せなくなってきた。
「どこの高利貸しだ。言ってみろ。」
「・・・え・・・?」
 何?なんて?立て替えて、くれる?
「しゅ・・・首都の、カルテル。」
「・・・ああ。やつらは高利貸し連盟を作ってるな・・・。なるほど、国中どこにいっても逃げ場はなさそうだ。」
「先日の革命で本部はぶっ飛びましたけどね。」
「だが、まだ追われているんだろう?」
「・・・そのようです。」
「よし。私が言って話をつけてこよう。」
「!?ちょ、ちょっと待ってください!私!そういうの嫌いです!」
「嫌い?」
「自分たちで何とかしないといけないものを、貴族とか、持てる者に、こう、縁があったからって助けてもらうのが!」
「・・・変わった人間だな。」
「そっちの方が変わってます!」
 間違いなく!
「じゃあこうしよう。私がカルテルにお金を返す。君はカルテルには追われなくなるが、私への借金が残る。」
「はぁ・・・。」
「そこで君を雇いたい。」
「はぁ・・・?」
「長期で、正式に。」
 ちょっと、やっぱり状況把握が追い付かない。
「君へのお給料のいくらかを私への返済に充てられるようにしよう。どうだ?これで自由の身になりながらも自分の力で借金を返すこともできる。」
「はぁ・・・。まぁ、そう・・・なりますね。」
「だから、ひとつ、仕事を頼まれてくれないかな?ラピス。」

 どうあっても、私を使いたいらしい。

 まずやって欲しいという仕事は、まあ簡単ではなかった。
 とある貴族の屋敷に潜入してほしいとかいう、かなりヤバそうな仕事だった。
 ただし、やはり報酬は法外だった。
「で、具体的に何をすればいいんですか?」
「魔女の粉を探してきてほしい。」
「・・・それ。伝説ですよ。」
「実在する。」
「はぁ・・・。」
 子爵、まともそうに見えて、実はオカルト集団の一員?
「どうも、それを悪用しようとしている者がいるらしくてな。マリット家がその首謀者らしい。」
「悪用・・・。あの、魔女の粉っていわゆる毒、ですよね?」
「おおかた、気に食わない貴族でも殺すんだろう。」
 うわ、物騒。
「君にはそれを探してきてほしい。」
「屋敷の中にはどうやって潜入するんですか・・・。」
「君には使用人になってもらう。使用人が足りないらしくってね、こちらから派遣する約束を取り付けたんだ。だから正々堂々のり込んでくれればいい。」
「・・・わ、かりました。」
 まあよく考えたら、私みたいな下々の者にしか頼めない仕事よね。
 死んでも、痛くもかゆくもないものね。

 ああ、借金苦。

 数日後、メイドの仕事の研修を一通り終えた後、手はず通りにマリット家に質素な馬車で届けられた。
「よろしくお願いいたします。」
 私のほかに2名、派遣された召使がいた。
「ラピス、新入りなのに大変ね。まぁ短い期間だし、お互い頑張りましょ。」
「はい。」
 いくつかの簡単な仕事を説明と家の中を案内され、敷地の大きさに感心した。
 マリット家はブロイニュから少し北に行った地区の統治者だ。
 子爵の家は小さな城でかなり年代物だったのだけれど、この屋敷はせいぜい築50年くらいのものだろう。
 調べる場所は指定されていたので、まずは倉庫のほうへ向かうことにした。

***

 ―― 子爵邸
「どうしてあの娘を雇ったりしたんですか?」
 子爵の書斎で散らばった本を整理しながらブレトンが尋ねる。
「気紛れとは、珍しい。」
「武民の血が流れているそうだ。」
 子爵はブレトンのほうを見ずに答える。
「なら、なお、一層珍しいことですね。武民を近くに置こうとするなんて。」
「そうか?」
「そうですよ。」
 子爵は、くくと笑った。
「何がおかしいんですか。」
「いや、あの子がおかしいんだ。」
「はぁ?」
「私相手にたんか切ったり、金を差し出しても助けはいらないと言ったり。・・・ちょっと、おもしろいなって。思っただけだよ、ブレトン。」
「・・・・・・悪趣味ですね。」
 ブレトンは笑って見せた。
「だってあなた、武民とは仲が良くないじゃないですか。」

***

 マリット家に派遣されてから、数日たった。
「・・・無いわよ!」
 独り、憤慨する。
 ありません!どこにも、そんな怪しい粉は!
 色々探した。台所とか、書庫とか、倉庫とか。メイドが入ることが許される場所は全部。
 あとは、此処に住まう人達の部屋などが残っているが、なかなか入ることは難しい。
「・・・探し方がまずいのかしら?」
 どうしよう、見つけないと多分お給料もらえない。
 我ながら的外れな心配をしていると思うが、こういう性格なので許してほしい。
「ラピス。」
「あ、はい!」
 やましいことをしているという自覚があったからか、突然呼ばれてびくっとしてしまう。
「あなた新人なのに気が回るわねぇ。」
「あ、ありがとうございます!」
「ちょっと頼まれてくれる?」
 メイド長のふくよかな女性がにこりと笑って手を招いた。
「なんでしょう。」
「ワインセラーまで行って探してほしいものがあるの。」
「あ、はい。」
メイド長からワインセラーの場所を聞き、地下のワインセラーへ出向いた。
「うう・・・暗い。」
 こんなところがあったなんて、知らなかった。
 というか、チャンスかも!だって此処、怪しさ120パーセントだもの。
 ワインを探すふりをして色々物色する。
「・・・ないなぁ。」
「何かお探しかな?」
「ひあ!」
 本当に心底びっくりして、ばっと振り向く。
 そこに見たことがある男が立っていた。
「あ・・・、マリット様・・・!」
 マリットの当主。なんだっけ、名前、忘れたわ。
「あの、600年物のブロイニュワインを・・・。」
「それは、そのあたりだよ。」
「あ・・・そうですか。よかった、ありがとうございます。」
 にこっと笑っておいた。
 やばい。背中に汗が流れてる。嘘は苦手なのだ。
「マリット様は、どうして此処に?」
「ヴァーテンホールのメイドが、どれほど有能か見に来ただけだよ。」
 にこりと笑って、彼は穏やかに言った。
「あら、それでは、期待はずれなところを見せてしまったかと・・・。申し訳ありませんでしたわ。」
「ワインを頼んだのは私なんだ。」
「そうでしたか。今すぐにお持ちしますわ。マリット様はお部屋でお待ちくださいな。」
「君もいっぱいどうかな?」
「・・・へ?」
 あ、しまった。また素が。
「いえいえ、とんでもございません!私のような下のものが。」
「誘っているんだよ。喜んで受けてもらいたいね。」
「・・・は、はぁ。では・・・喜んで。」
 彼は妖艶に微笑み、ワインセラーから出ていった。
 姿が見えなくなって、どっと力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
 悪いことをしているところを見つかって、必死に取り繕った後のように、ドックンドックン心臓が高鳴っていた。
「・・・なんだったの、今の・・・!」

 寝室に運べとのことだったので、ワインとグラスを持って彼の寝室に向かった。
 若くはないとは言えおっさんでもない。まぁ、晩酌くらい付き合ってやるか、くらいに思っていた。
「失礼します。」
 ノックをすると返事があり、私は部屋に入った。
 うわ。豪華な寝室ね。今風だわ。
「お持ちいたしました。」
「ああ、ここに。」
 指さされるテーブル。
 従って、テーブルの上にワインとグラスを置く。
「君は、まだあの家につかえて日が浅いと聞く。」
 私の噂?一体、誰に聞いたんだろう。
「あ、はい。そうです。まだお仕えして数日で・・・。」
「そうか。ああいいよ、ワインは私が注ごう。」
「え・・・でも。」
「いいから、君は楽にしていて。」
「・・・はぁ。」
 言われたとおりに肘掛椅子に腰をかけ、部屋を飾る多くの絵を見ていた。
「この絵は?」
「あぁ、魔女狩りの絵だ。」
「魔女・・・。」
 趣味は・・・悪いわね。絵は綺麗だけど。
「ブロイニュは魔女の土地だ。」
「ああ、はい。そう聞きますね。会ったことはありませんが。」
「この魔女たちは遠い地の魔女たちでね。この国の魔女ではない。」
「まぁ・・・魔女狩りなんて、この国ではあまり聞きませんしね・・・。」
 全くなかったわけではないけれど。
 改めて魔女狩りの絵、とやらを見つめる。
 綺麗な絵。綺麗な女性。でもよく見ると、今にも透明な水が迫り、彼女の息の根を止めようとしている。
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
 グラスを受け取る。
 乾杯。
「いただきます。」
 ゴクン、と一口飲みこむ。
「・・・どうかな?」
「・・・ええ。」
 あれ?
「最高級のワインだ。是非、子爵の館に帰るときは、一つ持って帰って欲しい。」
「はい・・・。」
 ん?
「さ、もっと飲みたまえ。」
「・・・・・・。」
 黙る。
「ん?どうした?お口に合わなかったかな?」
「いえ・・・だってこれ、何か入ってます。」
 じっと赤い液体を見る。
「・・・何か?」
「ほとんど味はしないけれど・・・。これ、危ないですよ。」
「・・・・・・。」
 あれ?沈黙?
 マリットはじっと私の持つグラスを見つめて、固まっていた。
「く・・・。」
「え?」
「くはは・・・・。ああ、素晴らしい。」
「え?え!・・・きゃ!」
 ぐいっと手を掴まれ引っ張り上げられる。
 反動でグラスが手から落ち、割れる。見事に床の上で、粉々になる。
「痛い・・・!」
「君で試そうと思ったんだが・・・やはり、あれは偽物か!」
「へ!?」
 どさ!
 またもベッドに投げ出される。
「ちょ!」
 これはいい予感がしない。
「逃がさないよ。」
 がしっと腕を抑えつけられる。
「君には死んでもらう。」
「ええ!?」
 なんで!
「・・・魔女の、粉を入れたの?!」
 マリットはあからさまに動揺した。
「あれは、魔女の粉?!」
「は・・・っ、察しがいいな。さすがブロイニュの女・・・か。」
 いえ、私の出身は都です。
「ある商人から買い付けたんだが、いまいち効果を信用できなかった。だからお前で試そうとしたんだよ。」
「・・・な、なんで私なの!」
「さぁ?目立つからじゃないか?この。」
 少々乱暴に髪の毛をつかまれる。
「美しい髪が。」
「いっ・・・放し・・・――!」
 放してくれそうにない。分かる。この力は本気だ。
 ぎゅっと目とつむったら、また母親の声が聞こえた気がした。

 ―――強姦に襲われそうになったら・・・

「男の弱点 狙ええええええ!」
 ドゴ!
「うお!?」
 右足のすねが綺麗に入った。具体的に言うと、彼の股間に。
 手が緩み、離される。
 逃げなくては!
 とっさにベッドから飛び降り、走ろうとしたが、がっと足首と掴まれて、またも動けなくなってしまった。
「放してよ!」
「貴様あ・・・!」
 うわ、やばい怖い!
「殺す!」
 ガチャ。
 ドアノブが音を立て、扉が開いた。
「あぁ、ベッドでこんなに大暴れしちゃって・・・。」
 そして、ここにいるはずのない者の声が、降ってきた。
「まぁ不躾なのはこの人のせいなんで、お許しください。」
「へ・・・?」
 そこで微笑んでいたのは、やはり此処にいるはずのない声の主。
「ブレトン!」
 それから。
「し・・・子爵!?」
 マリットが叫んだ。
「すまないが、急用で来た。無粋な真似をしてしまったかな。」
「ちょ、た・・・助けて!」
 思わず叫ぶ。
「なるほど、うちの召使は夜伽までできる有能っぷりを披露しているのか。」
 おいいいいいいいいいい!
「そこまでサービスしなくていいぞ。ラピス。」
「してません!」
 後でぶん殴ってやろうか!
「ただし。」
 ぎらりと彼の眼が光る。睨まれ、見下ろされる。
 身体がすくんだ。
「高くつくぞ。うちの召使を、買うのは。」
 体の芯からぞっとした。
 何この人。怖い。怖い。怖い!
「ひいいいいいいいい!」
 マリットは怯えて情けない声を出し、ベッドから這い出した。といっても股間が痛くてうまく歩けないようだった。
「ラピスは連れて帰る。ブレトン準備しろ。」
「はい。」
 ブレトンが手を差し伸べてくれたので、その手をとり、身を起こした
「さて、粉は、これで全部か?」
 子爵はゆっくりとテーブルに向かっていき、紙に包まれた薬をいくつか拾い上げた。
「マリット。聞いているんだぞ。」
「は!はい!」
「そうか。後日人をよこす。その時詳しく聞く。覚悟しておけ。」
「はは・・・はい!」
 子爵は薬を全て懐に収め、こちらを見た。
「ラピス。」
「は、はい!」
「来い。帰るぞ。」
 今度は子爵から差し出された手をとった。
 温かかった。意外にも。

***

「なんで、来たんですか。」
 馬車の中。不服で不貞腐れるようにして言った。
「お楽しみの最中だったのか?」
「違います!そうじゃなくて!」
「もともとこういう段取りだったからだ。」
「は?」
「そもそもあの男が私の家のメイドの手が欲しいと言ったのは、この粉を試そうと考えたからだ。」
「はぁ?」
「自分の領地で人が不審死したらそれはそれで大変だからな。その点、召使い、しかも他の領地のものであれば後処理もめんどくさくない。」
「めんどくさいでしょ。普通に、人の家の召使い殺したら!」
「まぁ、書類的には私が色々することになる。」
「なんなのそれ!横着!?横着なの!?」
 はぁ、と子爵は小さくため息をついた。
「・・・マリットは昔からブロイニュが嫌いだからな。私の召使を殺してやろうと思ったんだろう。実験的にな・・・。」
 何それ。
「じゃあ、私が危ない目にあうって分かってて、送り込んだってこと・・・ですか?」
 子爵は言い訳じみたことは言わず、黙った。
 図星か。
「ふざけないでください!何それ!納得いかない!」
「助けに行っただろう。」
「遅いし!私もう毒一口飲んじゃったんですから!」
「・・・飲んだのか?」
「ワインに入ってました!変な感じがしたから一口で済みましたけど!致死量入ってたら死んでますよ!」
「変な感じ?」
 子爵はわずかに目を丸くした。
「こう、なんか入ってる!って感じです!んなことはどうでもいいでしょう!契約破棄!契約破棄してください子爵!」
「契約・・・?」
「雇用の件!私あなたの下なんかじゃ働けません!絶対いや!死ぬ!」
「借金はどうするんだ?」
「・・・う!」
 痛いところついてくるじゃないの!
「武民の血が流れているんだろう。少しくらい戦えるんじゃないのか・・・?」
「はぁ!?武民が全員戦うと思ったら大間違いですよ!」
「・・・違うのか。」
「私は母親がイルル出身なだけです!修行の旅とか!?時代錯誤もいいところ!私は王都で生まれて育った生粋のミヤッコよ!」
「・・・ミヤッコ。」
「都の子ってことですね。」
 ブレトンが補足する。
「ああそっか!武民の血が流れてるからコイツはちょっと無茶させてもいいやと思って雇用したのね?!偏見もいいところですよ!もう嫌!絶対に嫌!城着いたら絶対契約破棄します!借金は死ぬ気で働いて返します!それで文句ないでしょう!?」
 子爵は丸くしていた眼をますます丸くして、口をぽかんと開けたかと思うと思いっきり吹き出した。
「はぁ!?」
 こっちがめちゃくちゃ切れてるのに、子爵は笑いをこらえきれなくなったらしく、腹を抱えて笑いだした。
「な、なんで笑うの?笑うところだったっけ今?ねぇ。」
 こっちがキョトンとするわ、こんなの。なんか怒りを通り越して、もう何でもいい気分になってきた。
「いや、はは・・・すまない。おかしくてね。」
「おかしいのはあなたですってば。」
「いやいや、私にそんな口をきく娘は初めてで・・・。」
「物珍しいってことですか・・・。しょうがないですよ。子爵怖いから。」
「・・・怖い?」
「目つきが悪い。睨むし。無愛想だし。」
「失礼な、社交界ではモテモテなんだよ?」
 ブレトン、2度目の補足。
「美形は認めますけど。目の保養って意味でしょ、モテるのも!」
「・・・まぁそうですね。」
 ブレトン、認める。
「そうかなぁ?」
 ブレトンの方を見て子爵はおかしそうに笑った。
「とにかく!私、この仕事辞めますから。危ないの嫌だし。危険手当つかないし。」
「悪かったよ。」
「へ?」
 子爵は笑うのをやめて、まっすぐこちらを見た。
「悪かった。君を、偏見の目で見ていたこと、謝るよ。」
「君が普通の女の子だってことも、よく分かった。」
「・・・分かればいいです。別にもう、怒ってないし・・・。」
「仕事はもっと別の、安全なものを頼むから。」
「はぁ?いや、話聞いてましたか。やめるって言ったんですよ。自主退社ですよ!」
「側にいてくれやしないか?」
「はぁ・・・・・・・?」
 ず、ずるい!
「なんすか、・・・その笑顔。」
 そんな、口説き文句反則だろう。
「メ、メイドの仕事なんて嫌ですよ!」
「いいよ。他の仕事を任そう。」
「っ・・・~~~!どうあっても、私を雇用したいってわけ?」
「うん。」
 ふっと子爵は笑った。なんだその顔は!今までの張り詰めた表情はどこ行った!
「君みたいな面白い娘は、初めてだから。」

 ああ、借金苦。

 そして、私は変な奴に捕まってしまったらしい。


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