Love Letter From Death 第7話

―――俺は、ナニ?

「いったぁあー・・・ッ」
愛が恨みのこもった声を出した。そして地面に打ちひしがれていた身体を起こす。
「ちょっと緋憂!私が扉にあと3秒でも遅く触ったら、出られなかったのよ!無茶しないで!」
このボケ!と愛が罵った。
間一髪。
間一髪のところで愛が緋憂を押しのけ、扉を開き外へと飛び出すことに成功したのだ。
「・・・。」
「ちょっと!?」
緋憂の様子が、おかしかった。
「西洋城・・・行くんだろ。」
「は?」
「早く行こうぜ・・・。」
「・・・?」
彼は、決して愛と目を合わせようとしなかった。
少しだけ俯き加減で、何かにとらわれているように見えた。
門を初めてくぐったショックだろうか、と愛は想像し、ため息をついた。
「うん・・・。」
そして立ち上がる。
―――イングランド、西洋城。
最近ある貴族の側室の娘であるフィリア姫に異変がある、との知らせがあった。
そしてそれがどうやら霊の仕業である、との情報がありそれを探るためにやってきた。
「なんでも、護衛兵が次々に消えるらしいのよね。」
呟く。
ああ、嫌な予感しかしない。
「まあ。」
シュル。
愛はおもむろに持ってきていたらしいほぼ浴衣のような着物にそでを通し始めた。
「行けば分かるわよ。」
「・・・?」
緋憂はそんな愛を見て、首をかしげる。
「日本は現在、鎖国中だけど。やむを得ないわね。」
ものすごく慣れた手つきで着物を着つけた。ただし服の上から。
「後でどうにかすればいいし!ここは私!ジャパーンから来た使者ってことで!」
「・・・はあ?!」
「大丈夫大丈夫。アイアムジャバニーズ・SHISHA!!
ぐっと、親指を立てる。
「いやいや、落ちつけそんなんで話が通るわけないだろ!」
「大丈夫大丈夫!城の一つや二つ、潜り込めるわよ。」
「っちょ・・・!」

ってわけで。

「せんにゅーせーこー!!!」

愛ははしゃいだ声を出して用意されたベッドに飛び乗った。
「わーいベッドだー!お姫様ベッドっぽい!さっすが中世ヨーロッパ!」
「・・・なんか、いかにも『こんな女が使者かよ。ジパングもぶっとんでんな、オイ。』って顔、してたけど・・・。」
「ははっ!OKっすよ!」
全然OKじゃないだろうが。超不審がられてたっつの。
・・・それでも一応客として迎えられたのは、愛があまりにも堂々とし、そしていくらか(多分蜘蛛の糸か何かで作ったのだろう)美しい日本の布を献上したからだ。
しかし死神の多言語同時翻訳機能(ある種のこんにゃく機能)はすごい。
「さって。」
愛は真面目な顔をして身を起こした。
「行きますかっ。」
にやり、と笑う彼女は、やはり死神そのものだった。

「〜〜〜・・・っひゃー・・・さむ。くら。こわ!」
靴まで和風のゲタにしていないから、愛の不格好なスニーカーが廊下に足音をあまり響かせなかった。
昼の間に出会った人にフィリアの部屋の場所を聞いており、愛はその部屋に向かって歩いている。
しかしこの城の古いこと怖いこと。確かに幽霊でも住みつきそうだ、と思う。
「なんで夜中に動くんだよ。」
「夜中が霊の時間だからよ。」
一理ある。
「ここね。」
愛がそろっと、部屋の扉に手をやり、ゆっくりと扉を開いた。
不法侵入する際も、全然躊躇ない。
―――霊力が充満してる・・・。
愛は眉間にしわを寄せた。これは芳しくないからだ。
「それに・・・。」
―――血のにおいが、きつい・・・!
どん!
「!」
ひゃ!
心で叫ぶ。
足元に転がっており、ぶつかったのは。
――・・・に、人形かよ。あーびくった・・!
趣味の悪い、大きな女の子の人形だった。
その趣味の悪さにどんびきしていた時だった。
バキ!
「!」
ボキ!
骨が折れる音が響いた。部屋の、奥の方から。
「何?!」
愛は足音をたてないように走り出した。
「愛・・・!」
「し!」
緋憂はそれについていく。
「何この・・・!」
――肉をえぐるような、音は。

その光景を目にした時。

愛と緋憂の両方が戦慄しただろう。
血が舞い、肉が裂ける。それは一人の女の手によって。
男一人の体がバラけており、酷い惨状、酷いにおいが漂っていたのだ。
「・・・っぁ!」
愛は息を吸い込むのを忘れてよろめいた。
その殺戮、人食いを行っているのは紛れもなく。

―――フィリア。


「ッって、うわああああああああああああああああああああああ!ちょっとタンマぁ!」
がば!
「・・・・・・・・・・・・は?」
愛は現状把握できず、周りを見渡した。
「え!?」
どうやら今、叫んだと同時に目を覚まし身体を起こしたらしい。
ベッドの上に身を起して汗を流す自分がいた。
「ベッド?」
一体いつ。寝たと言うのか。というか、どうなったのだ。あれは夢だったのか?
グルングルン。頭が揺れる。
夢だとしたら、悪夢だ。でも。
「倒れていらしたんですよ。」
「!」
見知らぬ声がして、扉が開き、誰かが部屋に入ってきた。
というか、よく見ればこの部屋は自分が通された客間ではなかった。
「誰・・・!」
愛は身構えた。
「フィリアと申します。日本の使者さん・・・。ですよね?あ、英語話せます?」
にっこり。
気品あふれる美しい娘が微笑んでいた。
その名は。
「フィリア?!」
愛は叫んでいた。
「?」
ちょーっと待って待ちなさいって!
く、口から心臓が飛び出そうだったわ!あぶねー!
「・・・あの?」
目線を泳がせる愛に、美しい娘が戸惑う。
「・・・あれ・・?」
「え?」
愛が、鼻を利かせる。
しかし、血のにおいも、あれだけ充満していた霊力さえも消えていた。
「・・・フィリアさん。」
自分が昨日取っていた行動を思い返していく。
「はい?」
「あなた昨日どこで寝たの?このベッドあなたのよね。」
「ああ、私は別室で休みました。部屋の外であなたが倒れていらっしゃったんで・・・。お部屋まで運ぶには少し遠くて、失礼ながら私のベッドを使わせていただきました。」
「い・・・いえ、私の方こそ失礼を・・。」
なん。だ。これ。
「英語、お上手なんですね。」
にこ。と笑う彼女は昨日の恐ろしい形相とは全く違う。
絶対的に、別人。
「え・・・ええ・。」
彼女は興味津々といった感じで様々なことを質問し始めた、時には自分の話も交え、ころころと笑った。
「・・・・。」
―――なぜ?・・・というか、緋憂は?
愛はきょろきょろと周りを見渡した
日本はどんな国か、と訊かれ、此処よりは少し湿っている、など適当に答えつつ、姿の見えない遊霊を探す。
だが、少なくともこの部屋にはいないようで、見当たらなかった。
―――まあ、いいか。
ということにした。
目の前で楽しそうに話すフィリアに目をやる。
昨夜、人を食べていた。
彼女はそのことを微塵も覚えていない様子だし、今は全くの別人だ。
「・・・これは・・・。」
愛は呟く。
―――超〜〜やっかいね!!
ごくり、と唾を飲む。
今までのケースから見ても、かなりやっかいなタイプのものと似ている。
具体的に言うのなら、59回目の指令と似ている。
愛は死神日誌ともいえるメモ帳を取り出してチラリと見た。
「・・・。フィリアさん。私達の国の話も是非したいところなんですが、あなたがたの国の話ももっと聞かせてもらいたいわ。そこにあるアンティークはどんなものなのかしら?」
奥にある美しい棚に飾られた数々のアンティークを見て愛は言った。
「あ、これはですね。」
フィリアはとても楽しそうにその棚のところまで駆け寄った。
「お母様の形見なの。どれもこれも、かなり古いものなんですけど・・・。このお皿とかは南の方で作られているものでかなり貴重なんだそうです。」
「へぇ・・美しい柄ですね。」
「そうなの!それからこれは、母がすごく大切にしていたんだけれど。」
「・・・。可愛らしい、人形ですね。」
「ふふ。人形なんですが、もったいなくって。一度も遊んだことないんですよ。ずっとこの棚にしまってあって・・・。宝の持ち腐れでしょう?」
「なかなか大きいので・・・遊ぶには、少し。大きすぎる気もします。」
「そうね。でも名前があるのよ。アリスっていうの。」
フィリアは楽しそうに微笑んだ。
「・・・。」
愛は眼を細める。
―――前回と、同じでアンティークがらみね。
59回の指令。
あの時は、まだ死神見習いで・・・、油断した。
そして、彼が深手を負った。
―――気をつけなきゃ。
愛は少し睨むようにして、それらのアンティークを見据えた。

傷ある過去が、恐怖をあおる。

 

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