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ダブリ



「呪われた手って知ってる?」
ざわめいた風を常に吹かせる都会の空は、今日も昨日も明日も薄い蒼をたなびかせる、この時代。
24世紀。
順調に年を重ね、地球は変化に耐え続け、今がある。
荒んだ空が今日もある。その下に、一人の少女が歩く街がある。
制服を着たツインテールのクシュクシュの髪の毛の女の子。
綺麗な指定カバンをさげて、まっすぐ歩く。落ち着いた顔の女の子。
無言で彼女は歩く、もう町全体が繁華街と化したような街を歩く。
学校からの帰り道だ。
「・・・。」
何かに気付く。
「・・・うちの生徒手帳だ・・・」
ふっとかがんで取り上げる。
こんな道の上に何故落ちているのか、不思議そうな顔をして、少女は見つめた。
無言のまま生徒手帳を裏返し、開いて見る。
「・・・かみ・・い・・・・?」
神威。つっとなぞった印字。
「・・・・・・・」
萌。てん、と人差し指を止める。
「なんて読むんだろ・・・・・もえ?」
歩き出した。
きちんときちんと。まっすぐ生徒手帳を見つめたまま。
まぁいいか。心で呟く。
あした探して渡してやろう。
ふっと通った裏路地への道の前。
なにかが居た気がして、少女はふっと脚を止めた。
「・・・」
ゆっくりと振り向いた。そこに。男の子が突っ立っていた。薄暗い裏路地の先、そのわりにやけに光って見えた。
「・あ・・」
生徒手帳の彼と、同じ顔だと思った。
小さな声を漏らして、少女は裏路地への道へ、一歩入ったときだった。
ドッ!!!
と、鈍い音がした。
そして倒れる、見たところ此処らへんのギャングの一人だろう、モヒカンの太った男。
血が、飛んでいたのを見た。
光る彼が人間じゃないような速い動きをした。
そしてそのたびに、彼を囲んでいたチンピラ達は一人づつ、倒れる。
なぜか、恐ろしく速くはあるが殴られただけなのに、血はブシュッ・・・と音を立てて噴き出した。
「・・・・・・・・・ぁ。」
思い出した。
顔にかかる温かいぬるい赤い血を感じながら、彼女は心で呟いた。
読み方は『メグ』だ。
知っていた。この少年を。
どしゃ!
ついに最後の男が倒れた。
その傷を見た。
何かに噛み千切られたようにえぐれた傷から血が噴出している。
「・・・殴った、だけよね・・・」
呟いた。時。
「何見てんだ?」
顔をゆっくり上げた。メグという男を、初めてこんなに近く、まじまじと見た。
「お前 殺されてぇの?」
彼の眼が強すぎてでもあっけらかんとしすぎて、光って見えた。
「そんなわけ・・・ないじゃない」
ポツリ呟くように無表情で彼女は言った。
左頬に返り血を散らかした少女が無感情にそういったのでメグという男は一瞬止まったように見えた。
「は・・・ッ」
笑って歩き出した。すれ違いざま。
「転がってるチンピラよりいい度胸じゃねぇか」
彼女が振り向いたときには、もう男は路地を出ていた。
「あ・・・」
生徒手帳。

翌日の公立高校の2年棟。
わたり廊下をわたりながら彼女は昨日の生徒手帳を手に、周りを見ていた。
いない。
あのメグという男は、見つからなかった。酷く有名人なのに。
「ねぇ、呪われた手って知ってる?」
そばを通った二人組みの女の子の一人が弾んだ声で言ったのを聞いて、彼女は脚を止めた。
「知ってるー、噂のカムイメグでしょ」
「・・・」
振り向いた。カムイって読むんだあの苗字。
「アイツの手って触ったもの全部傷ついちゃうんでしょー。」
「・・・」
方向転換をして、彼女たちの後ろをさりげなくついて歩く。
気になったから。
「そんであの喧嘩ッぱやい性格でしょ。学校来ても問題起すか屋上で昼寝かって噂だよー」
「でもルックスいいよね、実は。結構かわいいの。本人の前では誰もいわないけど。」
笑。
「・・・・」
なるほど、屋上か。
彼女はまた方向転換をして、階段へ向かった。
立ち入り禁止。と、書かれた紙切れを引っさげたロープをすっとのけて彼女は上った。
ガタン
戸がいやに重かった。空がいやに近かった。
「・・・・・」
生徒手帳をポケットからもう一度出した。
そして近づく。あの茶髪の男に近づく。
「んの用だよ」
こっちを見ないまま、メグが言った。
「そーとー殺されてぇみてぇだな。」
すっと振り向いた、けだるそうに。マツリは脚を止めた。
「誰だよお前」
「・・・大蕗 祀。」
「で、何か用か」
また向こうを向いた。
「・・・呪われた手って、あなた?」
ピシ・・っ。と空気が凍ったのが分かった。
寒気がする。メグは黙ったまま、向こうを見たまま立ち上がった。
ざっ。脚をすらせて、メグが真っ直ぐこっちに来た。顔は良く見えない。
「付きまとうな。」
殺気を含んだ声だった。
マツリはすこし体が強張った気がした。
「怖くなる前にうせろ」
そのまま、彼はマツリを通り過ぎ、階段を下っていた。
「・・・生徒手帳・・・」
また、渡せなかった。
どうしてだろう。
先に渡してしまえばよかったのに。どうしても聞きたくなった。
呪われた手。
昨日見た殴った傷跡が本当に呪いだったのか。気になってしまった。

「マツリ!」
ゆっくりわたり廊下を歩いていたら、後ろからどさっときた。
「聞いてよ今日春日がさぁ!・・・て何?それ」
「いづみ。」
振り返る瞬間に。
「ぅわ!それメグの生徒手帳じゃん!何で持ってんの!?」
「拾った」
歩き出す。
「拾ったぁ!?はッ早く返したほうが良いよー?」
「うん。・・・返しにいったんだけどね」
「へぇ!?え!マツリ一人で!??!」
驚いて飛びのいた。
「うん。」
「あっ・・・りえない!あんた相手誰だかわかってんのー!?」
返せって言ったくせに。
「知ってるよ。噂は聞くもん」
「って・・・・―――もー・・・マツリって怖いもの知らずなとこあるよね。」
「・・・?」
ため息をつかれることなのか。わからなかった。
メグは――学校一の喧嘩屋で、いつも独りでいるのが目立つ男だ。
噂では毎日チンピラに絡まれてはそいつらを半殺しの目に合わせたり、馴れ馴れしく近づこうものなら噛み付く。
一匹狼といえば聞こえがいいが、薬に手を出してるだとか、人を刺したことがあるだとか、怖い噂が耐えない。
「ま、無事だったから良いけどさ」
「・・・・・。でも、もう一回行かなきゃ、これ。返せなかった」
じっと生徒手帳を見る。
確かに結構綺麗な顔してるよな、「メグ」も。
「やめときなよーもー。いいじゃんそれくらい。学校に届けときゃぁ」
「うんー・・でも、あの人・・・」
「犯されてもしんないよー?それにほら、今噂になってるじゃん。なんだっけ・・・。呪われた、手?」
「・・・・・・・・・あ」
「へ?」
マツリがふっと窓をのぞいて下を見る。いづみも一緒に見てみる。
「神威君だ」
「って・・。」
「ごめん。私、追いかけてみるね」
「え!っちょっと!!マツ・・!!!」
走り出していた。
「・・・ほんとに怖いものなんてないのよね、あの子」
だけど、真っ直ぐの眼をする。変な子だ。

走って、校庭横を横切った。
「・・・・」
いない。
それはそうか。
マツリはそのまま真っ直ぐこの生徒手帳を拾った道へと急いだ。
きっとあの道が彼の帰り道だ。
繁華街の町を少女が走る。ふわふわの髪の毛が風で揺れる。
「・・!」
見つけた。
でも、また見えるその背中がやっぱり、一歩ずつしか近寄れないような空気を放っていた。
マツリは脚の回転を遅めてゆっくり歩いた。
少しずつしか距離は埋まらない。つけているみたいになった。
「・・・・」
すっとメグが曲がって見えなくなった。
「!」
見えなくなったから、脚を早めて走った。そして曲がった瞬間。
ドッ
「!」
右手がマツリの左頬をかすってそのまま壁にぶち当たった。
マツリの背中も一緒に壁にぶつかる。
「・・・・・・・・・。」
驚いた目をしたマツリだが、すぐにいつもの落ち着いた顔に戻る。
「つきまとうなって言ったよな。」
メグが口を開く。
よく周りを見ていたら、人目のつかない裏の道だった。
実際周りに人はいない。ビルの陰で薄暗い。
「・・・・・」
黙ったまま。マツリはメグの顔を見た。
結構大きな目で、かわいい顔をしていた。
「お前さぁ。そんなに気になる?」
「え?」
「俺の手、そんなに気になるかよ?」
すっと左手を顔のところまで上げて笑っていった。
その笑顔。かわいい顔なんだけど。
笑って無かった。心が。
「・・・」
「一生考えたくないようにしてやろうか?」
ガッ・・・!
彼の左手がそのままマツリの襟元を掴んだ。
「!」
マツリの左手も強く彼の右手に握りつぶされて押し付けられる。
ふっと、メグの手が止まった。そして、マツリを見た。初めて真っ直ぐ。
「・・・」
服が少し乱れた彼女の目は。
「・・・・・・・お前」
まったく。さっきと変わらなかった。
真っ直ぐ。
無表情に近い目だった。
感情がなかった。目に。
それどころか、彼女のその無抵抗のさまに、メグは違和感を隠せなかった。
ふっと握り締めていた手首から力が抜けた。マツリは開放されたその手で、襟を直す。
「・・・これ」
ごそっとポケットから取り出す。あの生徒手帳。
「落としてたから」
「・・・・・・・」
ぽす。手の平に落ちるように返された。
「それだけ」
そういってすっとメグをすり抜けた。
「・・・・・・・・お前」
メグが呟く。マツリは脚を止めた。
「怖いものとか、ねぇのか・・・?」
振り返る。
「・・・・」
じっとまた見た。
メグを映すその目は、本当に真っ直ぐなのだけど。
やっぱり、何も見えてないような。
何も感じてないような。目だった。
「神威君は、自分が怖いの・・?」
「・・・。」
そのまま、マツリは行ってしまった。
ありえないくらい。あの子の目がメグの頭に焼き付けられていた。


「襲われたぁ!?」
翌日の高校の非常階段。
「かけた」
「っておんなじだよ!言ったじゃん!!一人で行くからだよ!!」
「んー」
じゅる・・・
フルーツオレのストローがうなる。
「大丈夫なの?」
「んー。大したことない」
「・・・・・あ・・」
唖然。
「あんたねぇ・・・―――」
あきれ返る。普通に。
「嫌じゃなかったの?」
もう1つレベルを下げた会話をしてみよう。
「・・・んー・・・そういうんじゃなくて」
「なに?」
「抗っても無駄だと思ったから。」
「・・・・・はぁ―――・・・」
ため息。
「ま。無事だったからいいのよ」
「うん。ありがと、いづみ。」
ガコン・・・
非常階段の戸が開いた音がした。
「ん?」
いづみが振り返る。そして止まる。
「・・・・・・ま、マツリ」
「んー」
マツリはまっすぐ前を見ながらフルーツオレのストローを噛む。振り返らない。
「マツリ」
「・・・?」
男の声だったから。マツリは振り向いた。
「・・・・・・・・。」
そこにいたのは、あの男だった。今、マツリって言った?
「・・・神威君・・・」
フルーツオレから身を離した。
「ちょっと来いよ」
にっと笑った。嫌な感じだ。
「・・・ま、まつりぃ」
いづみがマツリの裾をひっぱる。
しかし。彼女は立ち上がった。
「マツリ・・・!?」
「なに・・・?」
メグに、冷静に返す。
「おもしろい物見せてやるよ」
「・・・・・・今・・・?」
「お前が知りたがってたことだ」
「・・・・」
コツ・・・。階段を昇りだした。
「マツリ・・!」
「いづみ、悪いけどすぐ戻るから、先教室戻ってて?」
「え・・!う。うん」
そのまま彼女は行く。残される。いづみは心が落ち着かないまま。残される。
廊下を歩く。メグの脚は速くて、マツリはその5歩後ろを付くように歩いた。
「メグだ」
「ぅゎ・・・学校で久しぶりに見た・・・」
「っていうか」
周りの目が八方から刺さるようだ。
「あの子、誰?」
その眼はマツリも向けられた。
マツリは真っ直ぐ前を見つめて歩いていたが、その目に気付かないわけはなかった。
いつも、こんな視線を受けているのか、メグという男は。
「どこまで行くの?」
マツリが小さい声で話しかけた。
「外だ」
授業はどうするんだろう。マツリは考えたが、止まることはなかった。
彼について、昇降口を進み、正門を出た。町まで。
「・・・・」
沈黙の歩行。そこに。
ズラ・・・ッ
「!」
と、並んだチンピラが計五人。いろんな殺気が飛んでいた。
「この前は俺らの仲間が世話になったみてぇだなァ。くそ餓鬼」
メグに言ってるんだ。
なるほど。この前のしたあいつらの仲間だ。
メグの背中をつっと見た。
背中ばかり見ている気がする。
マツリはただ黙っていた。
「ちょうど良かったぜ」
メグが言った。
「相手してやるよ」
にっと笑ったメグに、チンピラどもは切れた。
「解ってんのか!?こっちは五人だぜ!来い!!!」
ガツっと、連れて行かれる。
「なんだ?この女」
「!」
一人が気付く。
「アイツの女だろ!つれて来い!」
そしてマツリも多少乱暴につれていかれた。
なんなんだ一体。
いつもの日常からどんどん離れてく。
あの路地裏。
「で。かかってこねぇの?」
メグが吐き出す。ちっと舌打ちをした一人の派手な男。
「そいつ」
マツリを指す。
「てめぇの女だろ」
「・・・」
マツリは黙って指されてた。反論なんかしなかった。
「頑張って守んなきゃ、食っちまうぞ?」
はっと笑ったその男に。
「はッ」
メグは笑ってのけた。
「お前らが俺に食われるんだよ」
「!!!」
ボッ!!!
目を。―――全員が、目を疑った。
「・・・・・・てめ・・なんだ・・それ・・!」
ゆらゆら
ゆらゆらゆれる 左手を
なにか白くぼんやり光る 得体のしれないなにかが揺れる
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・―――――」
チンピラがびくっとした。
その得体の知れないなにかが、恐ろしい口を開けて呻き出したんだ。
目はない。潰されてる。
鼻はない。そげてる。
ただ。口だけが真っ赤で、歯は恐ろしいくらいそろってて。
声は何処から聞こえるのか分からないくらい深い。
左手をまとうオーラのように彼に肘のあたりからその体を揺らし続ける。
体、ではないか。ただ短い短い手が顔を形どる所の近くに生えている。
「・・・・・・・・」
マツリの目にも、しっかり見えた。
これが、呪われた、手。
メグの顔はいつもどおりの冷静さを保ち、うっすら笑っていた。
「うっ・・うああ!!やっちまえ!!!」
一人が恐怖を殺したように叫んで襲いかかった。
手にはナイフがある。のに、メグはふっと笑った。
そして、またあの速さで、殴った。
左手で。殴った、のに。
ブシュッ!!
また血が噴出した。
「・・・・・・」
そしてまたマツリの足元に血が散った。
つづいてまたひとり、またひとり、殴られては、血を吹いてぶっ倒れた。
「う・・・うああ」
マツリを掴んでいた男だけになった。真っ直ぐメグが向かってくる。
「ひぃ・・!」
男が逃げ出そうとした。
「怖がってからじゃおせぇんだよ」
ドシュ・・ッ!!!
「・・・・・っ」
マツリの頬をかすめて彼の左手がマツリを掴んでいた男の元へ届けられた。
その瞬間マツリはしっかり見た。
自分の方へ向かってくる、白い化け物の顔が、大きな口を開けて嫌な笑い声を上げていたのを。見た。
そして次の1秒には、鈍い音がして、熱いものが耳にかかった。
どさ・・
落ちるように男は倒れた。
「・・・・・」
マツリはその男の血が耳にかかっているのを右手で確かめて、しっかり見た。
「・・・・・・・」
そしてそのままメグを見る。
「分かったか?」
「・・・」
メグはふっと笑う。
「呪われた手だ」
「・・・・・・それが・・・」
シュ・・・
マツリが声を出した瞬間にその化け物は消えた。
「こいつらは俺に恐怖を抱いたからな」
「・・・恐怖」
「こいつは俺に対する恐怖に向かって暴食衝動を発する。いったら化け物だ」
「・・・・・・」
メグの体は返り血だらけだった。
「俺を怖いと感じた奴らを俺が左手でなでれば、あいつが牙をむいてそいつをえぐる。」
「・・・・」
「それがお前の知りたがってた呪われた手だぜ。マツリ」
にぃっと笑った。メグの顔が。少し怖かった。
「それで、この傷なんだ・・・」
ちらっと見る。倒れた男たち。たしかに、鋭い牙で噛まれたような傷だった。そして深い。
「はっは!」
「?」
メグが急に笑い出した。その顔はやっぱり無邪気にも見えた。
「お前本当に女なのかァ?」
「・・・生物的には」
「はっ・・!初めてだぜこいつを見てびびらなかったのは」
「・・・」
メグが歩き出した。
マツリもついて歩く。
「少しも怖くなかったってことは・・・ない」
「へー?」
路地を出る。
「嘘だね。」
「ほんと」
「じゃああいつが消えるのはおかしい」
「・・・」
「お前をかすったときも、あいつの体がお前に全くかすらなかったわけじゃねぇ。でもあいつはお前を食わなかった。」
「・・・あの男の人の方が怖がってたんじゃないの・・・?」
あるく。繁華街。
「かもな」
笑ってた。
「それでも、この間も、左手はお前に反応しなかった」
「・・・・・・襲ってきたとき?」
軽く言う。メグはソレにも拍子抜けした。そしてすぐ笑う。
「そーそー。あの時疼きもしなかったからな」
「・・・・」
歩く。
「恐怖って」
今度はマツリが口を開く。
「恐怖って、死にたくないとか。」
「・・・」
「傷つきたくないとか。そうなったらどうしようとか」
メグが脚を止めて振り返った。
「そういう感情から湧くものなんじゃないかな」
「・・・・・てめぇにはねぇってか」
「・・・・そんなことない。」
何がいいたいのか分からなかった。
「多分。」
「・・・。」
また歩き出した。
「神威君。」
「上の名前で呼ぶな。」
「・・・・・メグくん」
「くんもいらねぇ」
いちいち注文付ける男だな。
マツリは一瞬息をつく。
「どうして、その手のこと。教えてくれたの?」
「・・・」
メグは黙る。
「お前だけだからだよ」
「・・?」
「お前だけが俺を怖がらなかった。」
「・・・。」
マツリはメグの目をじっと見つめた。
「だから」
ぴょんっとメグがガードへ飛び降りた。
「・・・」
メグが上を見て、マツリを見る。
「傷つけてやりたいと思ったんだ」
「・・・・・・・・・」
ふっとメグが笑った。
「失敗したけどな」
そういってメグはガードの下を行ってしまった。
一人残されたマツリは、一瞬空を見て、そして真っ直ぐ歩きだした。学校へ。

「マツリ!!」
がばっといづみがマツリを抱きしめた。
「大丈夫!?何もされてない?!無事?ってなにこの血!?」
「いづみ」
確認に確認を続けるいづみにマツリは驚きながら冷静にいった。
「大丈夫だから」
「ほんとに!?」
「うん」
ほっと胸を撫でるようにいづみが言った。
もう6時間目は終わっていたのだが、彼女はそれでも待っていたのだ。
「でも、何の用だったの?あいつ」
「んー?」
帰る支度をしながらマツリが返す。
「・・・傷つけたかったんだって」
「へ!?・・・マツリを!?」
「うん」
「なんでまた・・・・!」
「わかんない。つまりは私を怖がらせたかったみたい。」
「・・・????」
「珍獣に対する興味みたいなの抱かれた。」
「なんじゃそら」
ため息。
「ま、無事なら良いけど」
そしてまた正門を出て、彼女は帰った。
あの道を通って帰路に着く。
「恐怖・・・ね」
呟いた。


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